空飛ぶ広報室@有川浩

有川浩さんの最新刊「空飛ぶ広報室」。感想が遅くなっちゃったけど、発売日の前日にオットがサイン本を買ってきてくれて、その晩に読破。既に3回くらい読んだよ。←読みすぎ

空飛ぶ広報室 [ 有川浩 ]

主人公の空井大佑二尉は元戦闘機F-15のパイロットで、子供の頃から憧れていたブルーインパルスの内示を受けた直後に交通事故に遭い膝を壊したことでパイロット資格を剥奪され、総務に転属されて1年。今度は市ヶ谷の防衛省にある航空自衛隊航空幕僚監部広報室に転勤になったばかり。
夢が断たれて歩き出せずにいる空井と、同じく報道記者への夢が断たれたテレビ局ディレクターの稲葉リカとの淡い恋。そして自衛隊で唯一外部との渉外がある特殊な職場である広報室の仕事と、クセの強い先輩たち‥‥。
今までの自衛隊シリーズにも増して、有川さんの自衛隊（というか自衛隊員）への愛が感じられるお話。

「自衛隊の陸軍」と言ってしまうリカほどでは無いとしても、わたしも自衛隊の知識はほとんど無いに等しかったよ。基地と駐屯地の違いも知らなかったし、ブルーインパルスは戦闘機だと思ってたし、F-15とF-4の違いなんてわかる訳が無い。「就職に困っても自衛隊に入る人なんて居ませんよね」とは思わなくても、なんで警察や消防じゃなく自衛隊に入るのかなと思うことはあったし。
そんなわたしが最近は、テレビの番組表で自衛隊の文字を見掛けると録画してしまうし、電車の中吊りに自衛隊の広告を見つけるとちょっと嬉しくなってしまう。それほど、有川さんの自衛隊シリーズの影響は強烈。月9で3分間映像を流すよりも、深く深く読んだ人の心に沁みこむ分、広告効果は絶大。ただし、その本を読む人とテレビ放送を目にする人では数が違いすぎるけど。
もういいオトナなので、「自衛隊を見直す」「自衛隊には人が居るんだと再認識する（リカと同じだ）」という程度で済んでるけど、若かったら憧れちゃったりするかも知れないなぁ。運動神経・反射神経に難があるから自分が隊員になろうとはしなくても、恋愛対象として考えるかもかも？

と。この本の感想では無く「有川さんと自衛隊」の感想になってしまったので閑話休題。
とにかく広報室の先輩たちのキャラがいい。「おっさん萌え」の有川さんだけあって、室長の詐欺師・鷺坂一佐は特に素晴らしい。図書館戦争シリーズの玄田隊長にしろ「県庁おもてなし課」の下元課長にしろ、有川さんのお話に出てくる上司は「この人の下で働きたい！」と思うような人が多いよなぁ。
ひとつの仕事をこなすたびに大きくなっていく空井もリカも、メチャクチャ仕事人間でいいヤツら。リカは最初こそ報道記者からステップアウトしてやさぐれてる「いけすかないねぇちゃん」だったけど、すぐに素直ないい子になったし。
ただし、べた甘度は低いなぁ。脇っちょでベタベタしてるカップルも居るけど、空井とリカがくっつかずに終わっちゃうし。「空の中」の高巳と光稀のようにベタ甘な後日談を読みたいよぅ。

この本、E★エブリスタで連載後、本当は去年の夏に出版予定だったらしい。でも、震災でブルーインパルスの拠点である松島基地が被害に遭ったのを受け、もう一度松島基地に行かないと話を終わらせることはできないと、「あの日の松島」という書き下ろしの章を増やし、今年の夏に出版したもの。
震災時には空井が松島基地に転属になっていて、一年後にリカが取材に行くという設定だけど、有川さんが実際に見た光景がたくさん盛り込まれてるんだろうな。
松島には、去年のゴールデンウィークに行ってきた。震災から2ヶ月しか経っていなかったけど、観光船も再開して復興に向けて頑張ってる姿が印象的だった。電車の車窓から、海とは離れた場所にポツンとある船の姿も見た。「ここまで水が来たんだよ」という線も見た。
でもその頃にはブルーが松島所属ということを知らなかったので、基地のことは何も考えなかった。後から「ラブコメ今昔」を読んでブルーの拠点を知り、ブルーはどうしてるのかとネットで調べたりはしたけど。

読み終わって一番心に残っているのは、松島の取材を終えたリカに空井が言った「（特集では）自衛隊をヒーローにして欲しくない」という台詞。自衛隊員が冷たいご飯を食べていることを報道するのではなく、自衛隊があるから被災者は温かいご飯を食べられるということを伝えて欲しいという言葉は、たぶん自衛隊員の多くの人の考えなんだと思う。そんな考え方が出来る人たちに守られてるんだなぁと、温かい気持ち‥‥でもないな何とも言えない気持ちになった。（いや。こういうのがプロバガンダだどうだってなっちゃうんだろうけど。「隊」の在り方とかには疑問もたくさんあるけど、中に居る人たちはスゴイって話だからね。）

ちなみに。「空飛ぶ広報室」で検索してもwikipediaではまだページができてなかったけど、航空自衛隊にはちゃっかり広報ページができてたよ(笑)
→http://www.mod.go.jp/asdf/pr_report/soratobu/soratobu2.html